歩きはじめた赤ちゃんと犬猫たちと奥さんとの素敵な日々!


by papanatti
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斎藤晴彦の実力

きのう、神楽坂のシアターイワトで、
ベルナール=マリ・コルテスの『森の直前の夜』を観た。
じつはそれほど期待して行ったわけではなかったが、
終わってみると近年にない充実感があった。

出演は、黒テントの斎藤晴彦。一人芝居である。
開演ベルも鳴らないまま、客席がすうっと薄暗くなった。
すると、舞台上手に男がひっそり立っていて、
何やらぼそぼそとつぶやきはじめる。
だんだんと、その言葉はそこにいない誰かに向けて
発されているらしいことがわかってくる。

声は聞きなれた斎藤さんの声だし、例によって西欧不条理劇が
始まったのかなと、ぼんやり思っていた。
いったいこの主人公は、若いのか、年寄りなのか。
雨が降っているらしいが、どこにいるのか。
男が話しかけていると思われる「あんた」は何者なのか。
それらはいっさい説明されず、
際限のないモノローグが耳の中に入ってくる…

そのうち、奇妙な感覚に襲われだした。
目の前でしゃべりつづけるこの男は、斎藤晴彦によく似た
これまで会ったこともない異邦人なのではないか?
姿かたちはまぎれもなく日本人だし、口から出てくるのは日本語なのに、
どこか見知らぬ国の片隅で、わけのわからないことを
吐き出しつづける国籍不明の男に見えはじめたのだ。

彼の思考、彼の孤独、彼の感情などが、
勝手に耳入り込み、頭に、胸にもぐりこんでくる。
驚いたことに、それが決してわずらわしかったり、不愉快だったりしない。
彼は芝居の最後のほうで、駅の通路にいたときに感じた、
周囲の人間にたいする凶暴な衝動を語るが、
そのころには彼の抱えている闇に、心が共振するまでになっていた。

で、芝居が終わり、客席の明かりがつき、斎藤さんが一礼すると、
つい今しがたまで姿が見えていた「あいつ」は消えてしまった。
拍手、拍手。
これはすごいと思った。今のはいったい何だったんだ?
ものすごく久しぶりに「いいものを観た」気がした。
そのせいだろうか、けさ起きたとたん、
「きのう会ったあの男、今ごろどうしているんだろう。
どこかで寝床とメシにありつけたかな」
と思ってしまったのだった。

そして、芝居はひとえに役者にかかっているのだと思った。
by papanatti | 2006-05-14 18:31 | 映画演劇